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この10年で変わったこと

A ということで、ちょっとここまでで一旦区切りにします。それで良ければ。フリーディスカッションを。まずこの本の読み方、これでいいのかっていうところからはどうですか? Bさんは?

B 学校の部分で行くと、多分これ2014年の時点で書いてあるものなので、この10年の間で学習指導要領が改訂されて、だいぶ状況が変わってきているのかなと思うんで、おそらくこの苫野さんが『教育の力』は、文部科学省であったり、教育委員会であったり、学校の現場であったり、そういったところの方々もこの本を読まれて、社会に開かれた学校教育っていうのを提唱していこうという方向性に舵を切っているな、というふうに感じるんですけど。

A なるほど。

B Cさん自身は現場に近いところにいらっしゃいますが、そういったところに関してはどう感じてますか?

D すいません、横から。あのCさんって、きのくには行かれたことがございますか?

C 行ったことないですね。

D なるほど。あの辺の情報って文科省には上がってるものなんですかね? すでに実験を長期間やっているところだと思うんですけど。

C 情報は行ってると思いますけど、私が関わっている中だとはわからないですね。

D わかりました。すみません、Bさん横から。

C Bさんがおっしゃられたここ数年での変化っていうと、多様性のところは文科省さんとしても、重要アジェンダとして取り上げているという理解です。それこそ不登校の増加であったり、日本語が不自由な外国ルーツの生徒さんにどういう支援をするかっていうようなテーマもすごい今、重視をされているというのは理解をしています。

あと地域とよりどれだけ深い学びにつなげるかっていう観点でいうと、少子化のあおりを受けながら、学校再編みたいなところもすごい重要なトピックにはなってきている。

再編っていうと、地域住民から自分の母校がなくなるみたいな感じで反対があるので、単に母校をなくすんではなくて、新しい学びを提供するために2つの学校を1つにしてこういう学びを提供するから統合させてくださいみたいなロジックで話されたりするので、そういったところで、今回の本で書かれてたような、個別性的な学びであったり、協同的な学びっていうところは推進されているなと感じていますね。

A 他方でまだ不足感があるところはどんなところですか?

C 直接的な回答にはなってないかもしれないんですけれども、学校の先生とかと直接お話しする機会もありますけど、この指導っていう部分については、学習指導要領が改訂されましたけど、現場の先生に落し込めていないっていうのは、すごい課題として挙がってまして。
そこは引き続き課題となっている部分なのかなとは思います。

B さっき、Dさんがおっしゃってたきのくにの話っていうのは、和歌山のきのくに子ども村学園ですね。

D そうですね。私、堀さん(堀真一郎氏・学校法人きのくに子どもの村学園学園長、元大阪市立大学教授)と何回かあのお話しさせてもらい、実際、私も見に行ったことがあるんです。

B 体験学習をメインにした、いわゆるフリースクールみたいな感じなんですかね?

D 例えば面積の公式を教えるか教えないかみたいな稚拙な議論ではなくて、まさにプロジェクト型の形でやっておられるんです。例えば、農民班とか工作班とか4つ5つの班に分かれて、毎年ぐるぐる回っていくんですけど、じゃあ農民班だった時に、稲を植えるのに苗がいくついるかという時にどうやってする?というところから、面積の求め方まで田植えを通して学んでいく。そんなふうに非常に面白い。また、今まで出口がなかったんですけど、高専を作り、なるほど、こういうふうに持っていくのかという感じで運営されている。芸術系の大学や高専とかによく進学されておられて、高所得でないと行けない学校なら、私はすごい問題だと思ってるんですけど、高所得でかつ高学歴を考えておられた親御さんが、ちょっと普通の大学教育に疑問を持たれて入学させている方が、一定数いらっしゃる感じのところです。

とにかく、こういう教育をやっておられる学校があるのを文科省もある程度理解した上で、今回の教育改革、指導要領の改訂なんかも進めているのかなと思うところが、薄らと見えるんですよ。教科書の改定を見てても。

先生の役割、どうシフトする?

A ただ、苫野さんの記載によると、教師の役割は教え込むことから、これまで述べてきたような学びを支え、導くものへと転換していると言えるでしょうって言った時に、さっきCさんが言われた、先生の部分をどうするかっていう問題が、そう簡単にできるのかなというのは?

D 非常に大変ですよ。

B 学校の先生間でも、結構な格差が出てしまっているというところですよね。

D こんなことを言ったら身も蓋もないですけど、やっぱり勉強しなくなる先生と、ずっと勉強し続ける先生といらっしゃるんで。

A そこら辺までいくっていうのが、この学力を学ぶ力と定義したときの実は、本当は恐ろしいところなんですよ。だって学ぶ力を子どもに身につけさせましょうって言ってんだから。教える側、導く側が学び続けなかったら、そんなの子どもに見透かされるに決まってますよね。だから簡単なこと言ってないんですよ、学ぶ力って定義するのは。

D そうなんですよ。そこが、例えば部活動があるから、中学の先生は学ぶ時間が少ないと。労働基準法的には非常に不当で、時間外勤務も虐げられているので、部活は切り離すんだみたいな正論もあれば、いやいや、部活動で教育してるんじゃないかという先生もいらっしゃったり。で、そもそもは勤務時間を守った上で、残った時間は別のことに使いたい職員もいたりとか、施策そのものが徹底されるのが非常に難しい環境なんだと、なんとなく肌で感じます。

A これは内田樹さんがどこかで言ってましたけど、やっぱり学校の教育制度は、車で走りながら、その車を修理をするみたいなところがあって、この苫野さんの話でも、相互依存アーキテクチャーってかっこいい言葉使ってますけど、別に学校だけでは学校の話が成り立たないっていうことも大前提にあるので。だから僕らRESの考え方は、そういったところについて、やっぱり本質的な捉え方をすることをしなきゃいけないと思うんですよね。

で、我々としてはいいと思うものは取り上げて、なるべくつないでいきましょうっていうのがNPOの役割だと思っています。そういった意味では、これ自体はいいと。そうしたときに、どういうふうに、環境的に先生が難しいと言っているところを、こう変えていくのかということ。そっちの方に早く議論を持っていった方がいいと思います。

ただそうは言っても、この本が書かれた時期から5年10年の間にやっぱり変わりつつあるっていうのは多分にあって、この当時ですら自治体ごとにそれなりに変化があるっていうことなんで、案外、悲観しなくてもいいような気もちょっとしてます。みんな悲観するんですかね?

D 団塊の世代がもうほぼ全員退職して、もう還暦を迎える連中らがこうごそっといなくなると、意外とすっきりするような気もしますけどね。

A そうかもしれない(笑)。

D 現場におるものとしては、コロナ以降、すごく学校の教育現場で主導権を握っておられるというか、旧来のいわゆる集団教育を前提とした学校教育を是とする人たちの勢力が、すごく弱まりつつあるような気はするんですよ。

A いや、結局すぐに修理できるもんじゃないんで、やっぱり国家百年の計っていうぐらいのもんですから、ちゃんと数十年単位で世代がどう交代していくかも含めて見据えてやるような話ではあるっていうのは、おっしゃる通りだと思います。

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