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「おうち塾」という罠
—— 受験が子どもを伸ばすケースと、逆に削ってしまうケース。その分岐点はどこにありますか?
小川 それは、「自分の学び方のスタイルを見つけられているかどうか」に尽きます。じっと見て頭に写し取ってから書くのが得意な子もいれば、体を使って覚え、後で目で確認するのがいい子もいる。遺伝的に認知の特性は一人ひとり違うのです。自分のスタイルを掴んでいる子は、厳しい塾の環境でも伸びていきます。

小川大介氏提供
これまでの大手塾は「優れたカリキュラムを提供するが、使いこなすのは家庭の責任」というモデルでした。しかし、共働きの忙しい現代、塾側が「個別最適な学びの実現」という機能を担うべきです。一人ひとりの勉強の仕方をパーソナルに指導しながら、課題を提供するハイブリッドな進化が求められています。
最近、首都圏でジーニアスやスタジオキャンパス、VAMOSといった中小塾が信頼を得ているのは、自習室の完備や親向けの説明会を通じて、家庭と塾が役割を分担し、連携しているからでしょう。大手塾も、こうした「個々の成長」に踏み込んだサービスを充実させていく必要があると考えています。
—— 一方、家庭教育について、親が見落としがちな「やってはいけないこと」を教えてください。
小川 最悪なのは、親が塾の先生のように振る舞う「おうち塾」をやってしまうことです。親が学習を教える役割にレベルダウンするのは、成育上マイナスでしかありません。
親の最大の価値は、「親バカであること」。誰よりも子どもを信じ、面白がり、そばにいたいと思い続ける。これこそが、親以外に代わりがいない存在意義です。教えるのはゲーム性があって親も楽しいかもしれませんが、親がコントローラーになって、子どもというプレイヤーを操作し、受験ゲームを勝ちに行くような歪んだ関係性にのめり込んではいけません。SNSで受験戦略を発信することに躍起になり、本来の「親子関係」という骨格を見失ってはいけない。親は「自分は何のために親でいられるのか」という哲学的な視点に立ち戻る必要があります。
受験の真価は「良質なストレス」にある
—— 受験を人生の中でどう位置づけるのが健全だと思われますか?
小川 受験の価値は、「いいストレス(負荷)がかかること」にあると思っています。思うように解けない経験、それに対して事実を見つめて自分を変えていく営み。そして「どの環境で自分は頑張りたいか」という人生の選択を突きつけられること。
これらのストレスに向き合い、乗り越えるプロセスこそが、子どもを「自分事としての人生」へと歩ませるのです。負荷がかかることを価値あるものと理解し、親自身もうろたえずに、子どもの葛藤を成長の過程として受け入れる。そうした向き合い方がなされた時、受験期間は子どもを伸ばしてくれる有用なものとなります。
非認知能力の正体
—— 昨今話題の「非認知能力」と学力の関係についてはどうお考えですか。
小川 私は「非認知能力」という呼び方自体が間違いだと思っています。それは「能力」ではなく、その人らしさという「特性」です。
自分らしさを知り、それを「認知化」すること。例えば「私は褒められると頑張れる」とか「一人の時間があれば集中できる」といった自分の特徴を自覚し、環境を工夫できるようになれば、学力も精神的な安定感も格段に高まります。漠然としていた「自分らしさ」を認知的(客観的)に捉えることで、それが「使える力」に変わるのです。
—— 生成AIの時代、中学受験の学習はどう変わると思われますか。
小川 AIは統計と確率の処理には圧倒的に強いですが、最終的な「判断」や「責任」は人間にしか持てません。これからの人間に求められるのは、出てきた選択肢に対して「僕はこっちがしたい」「私はこの推論を採用する」と自分の欲求で決める力です。
正解を出す訓練はAIに任せればいい。これからは、適性検査型入試のように「自分の思いを語らせる」試験や、算数一教科入試のように「尖った自分らしさ」を評価する形が、AI時代とより親和性が増していくでしょう。自分の思い、自己主張をしっかりと持っている人こそが、AIを使いこなせる側になれるのです。
才能タイプ診断『コドモトメガネ』が拓く、個別最適の未来
—— 最後に、先生が実践されている才能タイプ診断『コドモトメガネ』の具体例を伺えますか。
小川 私の理論は、「学び方の傾向」と、社交度や楽観度などの「行動の傾向」の二軸で構成されています。
例えば、「瞬間記憶タイプ」の子。視覚が強く、パッと映像で捉えて結論を出したがります。だから途中式を書かない。これを「式を書きなさい!」と叱るのではなく、「あなたは画が掴めているから強い。でも、それを一度メモして頭から外せば、次の画がもっとよく見えるよ」と、本人の感覚に寄り添ってアドバイスをすると、納得して伸び始めます。

小川大介氏提供
あるいは、不安が強く、人目を気にする「実は繊細型」の子。失敗が重なると萎縮して動けなくなります。これを「やる気がない」と決めつけず、不安を軽減するために「解かなくていいから一緒にノートを見直そう」と、本人が行動しやすい環境を整えてあげれば、本来の意欲が戻ってくるのです。
大人はすぐに「努力不足」「能力不足」と片付けがちですが、実は単なる「才能タイプの活かし方不足」であることがほとんど。自分の使い方が分かれば、一回のカウンセリングで偏差値が劇的に上がることも珍しくありません。
受験を「恐怖の対象」にするのはもう卒業しましょう。私は入試を、学校と受験生が対話する「参加の儀式」であってほしいと願っています。校風に共鳴する一員を迎え入れる対話の機会へ。受験という体験そのものが、子どもの自立を加速させ、自己肯定感を高める豊かな期間になること。それが、私が願うこれからの受験の姿です。
小川 大介(おがわ・だいすけ)
教育家・才能タイプ子育て研究所 所長
1973年大阪出身。京大法卒。30年超の受験指導と8000回以上の面談から、統計学と認知科学に基づく独自の「才能タイプ理論」を確立。不変の遺伝特性と、経験により変化する認知形成を掛け合わせ、人を90タイプに分類。個々の本来の資質を正確に捉え、潜在能力を引き出す実践的な子育て・人材活用法を提唱している。
親としても「才能タイプ子育て」を実践し、息子は灘・開成・筑駒のすべてに合格。現在は京大医学部で学ぶ。理論と結果を両立させた説得力ある指導が支持され、メディア出演は700回を超える。
【主な著書】
『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』(KADOKAWA)
『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』(すばる舎)
『5歳から始める最高の中学受験』(青春出版)など著書・監修28冊
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