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インタビュー
第9回 小川大介さん(教育家・才能タイプ子育て研究所 所長)『受験は「合格」から「成長」へ——小川大介さんに聞く、受験の現在地』【インタビュー】

受験は、点数と序列の競争で終わっていいのか。少子化で学校経営が揺らぎ、家庭は「どの環境で育つか」をよりシビアに選び始めた。マーケティングの時代から「人」の時代へ——受験を“成長の期間”に変えるために、学校と塾と家庭は何を更新すべきか。小川大介さん(教育家・才能タイプ子育て研究所所長)とともに、受験の現在地を読み解く。
これからの受験のあり方
—— 今回のテーマは「受験」ですが、まず小川さんが考える「これからの受験のあり方」についてお考えを伺えますでしょうか?
小川 角度によって見え方は違ってきますが、まず学校・教育機関側から見ると、少子化の中で「子どもたちのパイ」自体がものすごく小さくなっていく。その中で、各校が自分たちの個性や特性を維持していくことが、今後ますます大変になるだろうと感じています。
私の母校である大阪星光学院でも、同窓会の理事会などで「1学年200人規模というのをいつまで維持できるだろうか」という議論が出ています。規模を維持するために募集エリアを広域に広げるのか、あるいは人数を例えば160人程度に減らしてでも、合宿を主体とした教育といった「星光らしさ」を維持していくのか。「誰でもいいから入ってもらえばいい」という考えでは、学校としての質は維持できません。こうした学校規模と独自性の関係性が、今後の大きな論点になるでしょう。大学側では一足早く、定員削減などの動きも出始めていますね。
一方で、私が主なフィールドとしている「親教育」の観点から見ると、一世代古い「合格ありきで点数を取ること」が目的の受験観を持つ方はまだ多いものの、実態としては変化が起きています。受験学習を通した子どもの成長や、我が子にとって望ましい環境を選ぶという意味での受験。そうした観点を持つ家庭が増えており、インターナショナルスクールや海外進学も視野に入れ始めています。
ブランド校に選んでもらうための受験ではなく、家庭が主体となって環境を選ぶ。そうなった時、学習そのものにも「好奇心を広げる」「自律心や自己肯定感を高める」といった意味を求めるようになります。私は才能タイプ診断『コドモトメガネ』や『才能タイプ中学受験』というノウハウを通じてアドバイスしていますが、親御さんからは「本当は受験を通して子どもを成長させたいけれど、現実には無理ですよね」という声をよく聞きます。
なぜ無理だと思ってしまうのか。それは、首都圏であればサピックスやグノーブルといった、旧態依然とした競争主義、大量の問題を解かせることで成績を競わせる塾の勢力が依然として強いからです。しかし、子どもへの理解を深めていけば、そうした厳しい環境の中でも「自分自身を掴んでいく受験」は可能です。私は、必要悪としての受験から、受験期間そのものが子どもを成長させ、自立と自己肯定感を高める期間としての受験へと、徐々に変わっていくことを願っています。
マーケティングの罠と「人」への回帰

—— 今、学校や塾側の変化についても触れられましたが、ここ数年で劇的に変わってきたと感じる部分はありますか?
小川 変わっているというより、各学校が試行錯誤して悩んでいるな、と感じます。コースを細分化したり、一回の受験料で何度も受けられる「サブスク受験」のような方式を編み出したり。開智学園さんの事例のように、トータルの受験者数が膨らんで実態が見えにくくなるようなマーケティング的集客を目的化した動きもあります。それに危機感を感じた他の学校群も、慌ててコースを設けたりと、ちぐはぐな対応をしている過渡期です。
しかし、マーケティング主導の運営になると、「グローバル」「ICT」といった売り文句が横並びになり、親御さんは「結局、何が違うのか」が分からなくなってしまう。校舎の綺麗さだけで選んでいいのか、と困惑している感触もありますね。
そんな中で、巣鴨や武蔵のように、流行に左右されず「ブレない姿勢」を貫く学校への信頼が再燃しています。東大合格者数などで叩かれる時期もありましたが、巡り巡って、そうした独自性を維持している学校への安心感が生まれている。
今後は、生成AIの時代が進むにつれ、システム的な魅力ではなく「そこにどんな先生がいるのか」という「人」にフォーカスした受験になるでしょう。特定の校長や教頭、教員といった「人」の魅力こそが、学校を選ぶ根拠になっていくと考えています。
守るべき「不変の価値」と、決別すべき「旧来の序列」
—— 小川さんが考える、これからの教育において「変えるべきもの」と「変えるべきではないもの」を三つずつ挙げていただけますか。
小川 まず、変えるべきではないものは、第一に、「建学の理念」です。私立・国立である以上、何を大切にする学校なのかというポリシーを維持し、それを伝え続けることは変えてはいけません。第二に、「教員たちの想い」。学校は知識を教えるだけでなく、人を育む場です。先生にはマーケッターではなく、教員としての矜持(きょうじ)を持ち続けてほしい。
第三に、「卒業生と在校生とのつながり」です。歴史を紡ぐ存在として、同窓生が結びつく場としての学校。星光学院でも、卒業生が東大のキャンパスツアーをしたり、企業見学をサポートしたりしています。こうした伝統の継承は、学校の大きな力となります。
次に、変えていくべきもの。
一つ目は、「進学実績の捉え方」です。未だに東大合格者数で学校を評価する価値観が根強いですが、大学側は今、大きく改革を進めています。東大一強という発想から卒業し、偏差値の輪切りではない、生徒のキャリア形成や関心領域に適した進路指導へと変わるべきです。
二つ目は、「学校側による積極的な親教育」です。これは私の願望でもありますが、学校は親を「お客様」として扱うのではなく、もっと要求を出すべきです。倫理観がおかしな家庭や、自分たちのことしか考えないモンスターペアレント気質の親が現実として存在します。学校は親と連携連帯し、「責任を持って子どもを送り出す側」としての自覚を親に求める勇気を持つべきです。慶應系のように、面接などを通じて暗黙のうちに家庭のモラルを問う姿勢も、一つの教育的働きかけと言えるかもしれません。
三つ目は、「対話型の学習指導」への習熟です。AIが知識の整理や統計的な仮説立てを得意とする時代、人間には「それを元にさらに考え、深める」役割が求められます。AIと対話できる力を持つ。それには、先生と生徒が共に考え、ディスカッションする共同作業としての学びが不可欠です。
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