教育サービス開発評価機構(R.E.S)が送る勉強会の第3回のテーマは「身体知」。今回は、身体知を音楽やダンスなど芸能・芸道の観点で考察したいと思います。 インタビューに答えてくださったSOAさんは、シンガー/ソングライターでありながら音楽教育にも携わっている方です。身体知の視点から見た音楽やその制作、また音楽教育への想いなどを全3回にわたって聞きました。 最終回は、お寺での音楽教室、ワークショップ、また小学校での音楽の授業を中心に、音楽教育への想いを語ってくださいました。
お寺の音楽教室と深い音楽体験
R.E.S SOAさんは、ミュージシャンとしての音楽活動と並行して、実家のお寺で音楽教室やワークショップを開催する活動をされています。お寺での音楽活動というのは独特ですね?
SOA お寺という場所は、日常の喧騒から離れ、心を落ち着ける空間です。そこで音楽を学ぶことで、身体と心が繋がる感覚を育むことができると思います。リズムや歌を通じて自己表現しながら、自然と調和する感覚を大事にしています。 私がお寺で運営している音楽教室やワークショップでは、リズムゲームや体全体を使った表現を取り入れています。楽譜を読むだけではなく、リズムや音を体で感じる体験を通じて、音楽を学べるように工夫しています。特に子どもたちには、こうした体験を通じて音楽の楽しさを伝えています。音楽をただ頭で学ぶのではなく、体で感じ、心で表現することが、深い音楽体験につながると思っています。
R.E.S まさに身体知ですね。レッスンを受けられる方の年齢層も広いと思いますが、違いは感じますか?
SOA 特に子どもたちの場合は、親が習い事の一環としてピアノを選んでいることが多いです。子どもたちは、他の習い事と同じ感覚で音楽を習っている子もいれば、音楽が楽しくてやりたいから来ていると感じる子もいます。でも、中にはただ淡々と続けているだけの子もいますね。この辺りは、私自身も考えるべき課題だと感じています。
R.E.S 大人の場合はどうですか?
SOA 大人の方、特にボーカルレッスンを受ける方の場合、メンタル的に何かを解放したいという目的が強い印象があります。例えば、主婦の方が社会とのつながりを失ってしまって、ボーカルレッスンをきっかけに自己表現や自信を取り戻していくケースも多いですね。実際に、10年以上レッスンに通い続け、社会復帰を果たした方もいらっしゃいます。音楽を通して自分の感情と向き合い、自信をつけていく過程を見守るのは、非常に感動的です。
R.E.S 子どもと大人で、音楽を通じたアプローチに違いが出るということでしょうか?
SOA そうですね。子どもの場合、音楽を楽しむことがメインになります。彼らが音楽を通じてどのように成長するかはわからないので、場所作りとしての音楽の役割を大切にしています。親御さんから「何歳からピアノを始めたらいいですか?」とよく聞かれるのですが、何歳から始めるかよりも、何歳まで続けるかが大事だと思います。
また、発表会やコンクールでの成功体験は非常に重要だと考えています。私の音楽教室でも、年に1回発表会を開催しています。子どもから大人まで全員が同じ舞台に立ち、それぞれが緊張しながらも演奏する。その場で感じる緊張感や達成感は、言葉では表現できないほど大きいです。
特に大人になると緊張する場面は減ってくるので、あえて挑戦してみることで新しい自信をつけられるのではないかと思います。緊張しながら演奏する大人を子どもが見ることで、大人も頑張っているんだという姿を知ることができますし、共通の体験を通じて、家族や生徒同士の絆も深まりますね。
学校教育の限界と可能性
R.E.S 小学校でも講師をされています。学校の音楽教育について、課題はありますか?
SOA 音楽の授業は1対30、40などの規模で行われていることが多いですが、これでは深い音楽教育は難しいです。ソルフェージュの基礎や音楽理論に時間を割くこともなく、楽器や歌、ハーモニーを一通りやるだけになってしまっています。予算を使うのであれば、小学校だとライブに連れて行くのは厳しいかと思いますので、学校演奏の機会を多くすることでジャンルを幅広く聴けると良いと思います。何より音楽を実体験させるような機会をもっと増やすべきだと思いますね。
R.E.S 先生が変わると授業の内容も大きく変わってしまいますよね。
SOA 音楽の授業が教科書通りに進むのはよくあることですが、それが子どもたちにとってどれだけの意味を持つかは別問題です。良い先生に当たれば素晴らしい体験ができるけれど、運が悪ければ音楽は単なる授業の一環として終わってしまいます。学校教育で音楽の成功体験をもっと増やすためには、単なる知識ではなく、実際に発表したり、何かを作り上げる体験を通じて自信をつける場が必要だと思います。
大人も子どもも含めて、音楽が難しいものとして捉えられてるような感じがしています、立ち位置として。当たり前に毎日聞いてるものでもあるのに、いざ自分が音楽をやる側になったら自発的に何もできないっていう状態、すごい難しくなるっていう感じがすごくある。もっとラフに、単純にリズムに合わせて体を動かすことでメンタルが明るくなるとかは、子どもも大人も変わらないかなって思うんですけど。
あと、楽器を触ることも一つですよね。ピアノが低いところだったら弦が太くなって、高いところだけが細くなってって、こんなふうに空気が振動して変わるから音が低くなって高くなってというようなことを体で感じる。自分の呼吸を体で感じる。楽器の振動として体に感じるっていう。実体験を積ませてあげることが、音楽教育にはこれからもっともっと大切なのかなって思ったりします。体で振動を感じるということは、人間の一番の根源だと思うんですけど、それが音楽っていう認識ともっと合わさっていくような教育ができたらなって自分でも思いますね。
R.E.S なるほど。でも、なかなかハードルが高いのではないでしょうか?
SOA 音楽を教えるって本当に難しいです。どこまでが教育で、どこからが社会作りなのか、その境界がすごく曖昧なんですよ。音楽って文化、社会、歴史、すべてが一体となって作られてきたものだから。もちろん音楽の理論とか、技術的な部分はとても大事です。でも、私が特に重視しているのは、音楽が人と人をつなぐツールだということを、子どもたちに直に体験してもらうことなんです。自分の音楽教室や学校教育を通じて、そういった実感を子どもたちに持ってもらいたいんですよ。
やっぱりどうしても受け身になりがちなんです。生徒たちは与えられるだけになってしまって、自分で考えたり、意見を持ったりする機会が少ない。それを変えていきたいですね。もっと生徒たちが自発的に考え、感じる教育を目指していきたいです。
居場所作り
R.E.S 非常に大切な視点ですね。お寺に生まれたことがSOAさんの思想や価値観に影響を与えていると感じることはありますか?
SOA お寺で生まれたから、というよりも、両親の影響が大きいかもしれませんが、私にとってお寺は日本社会の中の「余白」のような場所だと感じています。毎日社会で働いて頑張る場所ではなくて、少し立ち止まって心を休めるための余白がある場所。それが私にとってのお寺のイメージなんです。 住職という役職は、私たち家族にとって「ギフテッド」なもの、つまり与えられたものとして受け継がれてきました。その与えられた場所や立場だからこそできる貢献があるんじゃないか、という話をよく家族としています。社会貢献というと少し堅苦しく聞こえるかもしれませんが、私たちのお寺は、社会の中に「余白」を作り出す場所でありたいと思っています。特に忙しい現代の子どもたちにとって、お寺はそういった場所として機能することができるのではないかと考えています。自由に人が集まり、循環するような場を作りたいんです。
音楽活動も同じで、余白の中で人々が繋がり、心を休めることができる、そういった場所作りをこれからも続けていきたいと思っています。
SAO『アステリズム / 音の庭DUO』
【音の庭project】
ライブ活動自粛を余儀なくされたコロナ禍での新たな芸術発信のプラットフォーム創りをテーマに
萬福寺境内にて2021年にライブ動画生配信番組をスタート。
その後境内にて音楽レコーディングスタジオを設立、お寺で出来る音楽制作や音楽ライブのプラットフォームとして運営中。
最初から読む
SOA(ソア) 2016年より全国のJazzシーンで活動する大阪発のシンガー/コンポーザーSOA。2020年に1st full album”Voice of Buoy”を全国リリースし、ポップなメロディラインとフリージャズサウンドが織り交ざるその稀有なサウンドスタイルはシーンで着実に放つ光を強め続けている。Jazz.Soul.Brazilianなど多彩な音楽要素を取り入れたクロスオーバーサウンドから成される「新たなジャパニーズポップ」の構築を目指し、コロナウィルス感染拡大や天候災害によって混乱・停滞している世の中へ希望の光を歌うEP「讃」「U」をニューリリース。
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