「教育サービス」を見極め、そのポテンシャルを引き出す

インタビュー

第4回 音楽と身体知  SOAさん(シンガー/ソングライター)Vol.2

教育サービス開発評価機構(RES)が送る勉強会の第3回のテーマは「身体知」。今回は、身体知を音楽やダンスなど芸能・芸道の観点で考察したいと思います。 インタビューに答えてくださったSOAさんは、シンガー/ソングライターでありながら音楽教育にも携わっている方です。身体知の視点から見た音楽やその制作、また音楽教育への想いなどを全3回にわたって聞きました。 Vol.2 は、主にスランプとライブの「マジック」について語っていただきました。「マジック」とは一体何なんでしょうか?

ボーカルは言葉を持つ。だから最も直接的に感情に訴える

R.E.S 言葉、リズム、メロディー、ハーモニーの話が出てきました(Vol.1参照)。音楽を作る上で、この関係をどのように考えていますか?

SOA リズムは、人間の根源的な部分に最も強く働きかける要素だと思います。子どもでも手拍子でリズムに合わせられるように、リズムは最もシンプルで直接的に感情に影響を与えるんです。例えば、遅いリズムだと気持ちがゆったりし、速いリズムだと高揚感が生まれます。リズムは音楽の土台として最初に心に届く要素だと思います。

R.E.S なるほど。リズムが土台となり、その上に他の要素が重なっていくという感じですね。ハーモニーについてはどうですか?

SOA ハーモニーは、リズムとはまた違った形で感情に直結します。例えば、明るいハーモニーは楽しい気持ちを引き出し、暗いハーモニーは悲しい感情を呼び起こします。特にハーモニーは感情の表現において非常に重要な役割を果たしていて、リズムが感情の高揚を司る一方で、ハーモニーはその感情の色を決定づけるものだと思います。

R.E.S ハーモニーの感情表現はとてもわかりやすいですね。その上に乗るボーカルはどう影響するのでしょうか?

SOA ボーカルはやはり言葉を持っているので、最も直接的に感情に訴える部分ですね。言葉は意味を持ちますし、その意味が聞き手にダイレクトに伝わります。

言葉という意味では、私は曲のタイトルや歌詞に伏線を張ることがあります。最初は気づかれなくても、後でそれが回収されると、リスナーに「あ、そういう意味だったんだ」と気づきが生まれます。それが楽しいんです。伏線を張ることで、聞き手の解釈に委ねる余白を残すことができるのも面白さの一つだと思っています。

R.E.S 伏線を音楽に取り入れるというのは、具体的にはどのような形で行うのでしょうか?

SOA 例えば、同じフレーズを再び使ってリスナーに既視感を与えた上で、一度聞いたリズムやメロディ、言葉を少し変えて新しい意味を持たせるなどですね。そういったテクニックは、リスナーに「知っているけど新しい」と感じさせ、わくわくする要素を与えることができます。映画でも同じように、伏線として一度見たシーンやフレーズが後で意味を持って回収されると、感動が増しますよね。それと同じ効果を音楽でも狙っています。

SOA『アステリズム』(2nd EP「U」収録)
「この曲はまさに「伏線」と「回収」が色濃く出ている一例ですよね?」と訊くと、SOAさんは笑みを浮かべていた。

スランプ

R.E.S これまでとは少し違う毛色の質問になるのですが、歌うことや音楽を続ける中で、スランプを感じたことはありますか?

SOA スランプは何度もありましたね。特にプロの世界に入ったばかりの頃は、自分の声が通用するのか、他のアーティストと比べてどうなんだろうって自信をなくすことが多かったです。技術的な面でもスランプは多かったです。特に音域を広げることや、声の響かせ方には苦労しました。

メンタルの状態も大きく作用するので、高音を「出さなければいけない」と思うと、体が緊張して逆にうまく出ません。「自然に出る音」という感覚でリラックスして歌うことが重要ですね。

また、フリーランスで活動していると、正解がないんですよ。例えば、会社に勤めている方なら仕事の進め方や成果にある程度の基準があるかもしれませんが、音楽の世界にはそういった「正解」はないんです。自分で自分の道を切り開くしかない。だからこそ、他人と比べずに、自分らしい表現を見つけることが大事だと気づきました。

私はライブ中心に活動をしてるんですけど、ミュージシャンとして、音楽制作だけで仕事をしてる方もいるし、レッスンプロみたいな人もいる。ライブ中心のミュージシャンでも、ジャンルによっては、全然活動の仕方が違います。ポップスのミュージシャンは、曲を作って、CDを作って、どんどん売っていくような活動がメインだと思うのですが、ジャズの場合は、毎日のようにライブをすることがメインになってきます。本当にそれぞれで良い道を探していかなくてはいけません。ある意味、自信を持たないと、自分で決めて確信を持たないと、何事も進まないと思います。

スポーツとの比較と「マジック」

R.E.S 例えば、スポーツと比較した場合はどうでしょうか? オリンピックであればやっぱり金メダルを獲るのが一つの「正解」と言えるかもしれません。相手がいて、勝ち負けがある。そういう世界があるということに対して、ダンスや音楽など芸能・芸道というものは必ずしも競争相手がいるわけじゃない。でも、いると言えばいますよね。オーディエンスからの支持が基準になるかもしれないし、自分の中にある評価が基準になるかもしれない。ソフトボールをやっていた経験も振り返ってみて、音楽活動での「正解」とは何と考えていますか?

SOA うーん……そうですね。難しいな。スポーツは、点数を多く取ったかなどで勝ち負けが決まると思うのですが、一方で、点数だけが全てじゃなくて、例えばソフトボールチームの中で、一緒に頑張ってきた積み重ねてきた経験ということも、ものすごく大切なことだと思います。そういう意味では、勝ち負けというのはないのかもしれないです。

音楽は、例えばオリコン1位になるということが勝ちだという視点もあると思いますが、私はどちらかと言うと、経験を一緒にできたという経験を「勝ち」としています。人数が多い、数字が多いことが全てじゃなくて、綺麗事かもしれないですけど、例えば私の歌を聞いて、1人でも大泣きをしてくれた人がいたら、私はそっちの方が勝ちだなと思うので。

R.E.S 経験が勝ちになるとは具体的にどのようなことを言いますか?

SOA 例えば、スポーツの試合でも絶対こっちが勝つわけないと思ってたのに勝ったみたいな「マジック」があるわけじゃないですか? それと同じような「マジック」が、音楽にもあったりするんですよね。同じメンバーが5人集まったとしても、ある日のライブは、本当によかったみたいな「マジック」。この5人が綺麗に合わさって、本当だったら私達の実力ではできないことが、ライブで発揮できたというような「マジック」もあったりするんですよね。それがとにかく楽しくってそれを探してライブをしてるのかなって思います。

ライブは本当に特別な空間ですね。スタジオ録音とは全く違って、その場その時のエネルギーが直に伝わる感じがします。お客さんとの距離感や、その日の雰囲気、天候、体調、全てがライブの一部になります。その瞬間しか存在しないマジックが生まれるところにあります。例えば、同じセットリストでも、観客の反応や自分の気分で全然違うパフォーマンスになるんです。その瞬間にしか生まれない「奇跡」みたいなものがライブにはあって、それが本当に楽しいんですよね。

特に、コロナ禍でのライブは特別な体験でした。限られた人数で、みんながマスクをして、声を出さずに拍手だけで応援してくれる。それでも、その場の空気感や一体感が感じられて、あの時のライブは一生忘れられない思い出になりました。

 

Vol.3に続く


SOA(ソア) 2016年より全国のJazzシーンで活動する大阪発のシンガー/コンポーザーSOA。2020年に1st full album”Voice of Buoy”を全国リリースし、ポップなメロディラインとフリージャズサウンドが織り交ざるその稀有なサウンドスタイルはシーンで着実に放つ光を強め続けている。Jazz.Soul.Brazilianなど多彩な音楽要素を取り入れたクロスオーバーサウンドから成される「新たなジャパニーズポップ」の構築を目指し、コロナウィルス感染拡大や天候災害によって混乱・停滞している世の中へ希望の光を歌うEP「」「U」をニューリリース。

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