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セミナーレポート

『身体(からだ)は考える 』(「身体知が学びの新たな地平をひらく」vol. 2)前編

RES主催セミナー「身体知が学びの新たな地平をひらく」。この第2回『身体(からだ)は考える』を7月7日に開催しました。「上達論」「「身体(からだ)は考える」の著者である方条遼雨さん(天根流代表、身体思想家)をお招きし、「身体と知性の関係」について語られた本セミナーをレポートします。(前編)

身体感の二重性――主観と客観の関係性

まず、方条さんは身体に関する知性「身体知」を「機械的身体感」と「自然的身体感」とも言える2種類に分類しました。機械的身体感は、身体を客観的に捉え、効率や機能性を重視する見方を指します。一方、自然的身体感は、身体の内側から感じる感覚や直感的な理解を重視するものです。

また方条さんはその概念を、主観的身体感と客観的身体感という言葉で表現されました。「主観的身体感」と「客観的身体感」が存在し、私たちの成長とともにこれらがどのように発展するか。生まれたばかりの赤ん坊は、泣くことで自分の欲求を表現するような、極めて自己中心的な視点から「主観的身体感」を持つことが始まりです。この段階では、赤ん坊は自分の身体感覚と世界をつなぐ橋渡しとして、この主観的身体感を唯一の手段としています。

成長するにつれて、他者との交流や社会経験を通じて「客観的身体感」へと発展していきます。例えば、幼少期に親や兄弟とのやり取りを通じて、自分の行動が他者に与える影響を学び、社会性を獲得していくプロセスがこの客観的身体感を育むといえます。方条さんはこの過程を「知性の基盤を形成するために不可欠なもの」とし、人間が複雑な社会で生き抜くためには、この「客観的身体感」も非常に重要であると述べました。

文明の進化と身体感の変容

次に、文明が進化する過程で身体感がどのように変容してきたかの説明がありました。初期の社会においては、物々交換が主流であり、農耕や狩猟を通じて人々は自然と密接に結びついた生活を送っていました。このような時代には、身体感は非常に直感的で、生活のあらゆる側面が身体的な感覚と結びついていたのです。

しかし、方条さんは文明の進化が進むにつれて、この身体感が次第に薄れ、抽象的なものへと変化してきたと言います。特に、貨幣経済の導入から電子通貨の普及に至るまでのプロセスが、私たちの身体感覚をどのように変えてきたかを詳細に説明されました。

「現在、物理的な存在を持たないデジタルな記号が価値を持つ時代になっており、私たちの生活はますます抽象化され、身体感覚から切り離されたものになっている」と方条さんは警鐘を鳴らします。

この指摘は、デジタル化がもたらす便利さの陰に潜むリスクについて考えさせられるものでした。

 

参加者から質問を受ける方条遼雨さん

知性と身体感のバランス

セミナーの中盤では、知性と身体のバランスがいかに重要であるかについて、具体的な事例を交えての説明がありました。方条さんは、肉体を無視した知能の進化が、私たちの本質的な人間性を損なう可能性があると警告しました。これは特に、現代の技術や科学が急速に進化している今、私たちが直面する最大の課題の一つだと言えます。

例えば、将棋の世界におけるAIの進化がプレイヤーたちの戦術を大きく変えている現状が挙げられました。AIは膨大なデータを分析し、人間には到底思いつかないような戦略を編み出します。その結果、プレイヤーたちはAIを活用して競技のレベルを大幅に引き上げていますが、その一方で、彼らの身体感覚や野性的な直感は次第に失われます。方条さんは、

「知識の処理能力の高度化は、必ずしも人間性の向上を意味しない。むしろ、身体感の喪失によって生ずる影に気づくべきです」と語りました。

本物を見極める知性 身体感の役割

セミナーの後半では、情報過多の現代において本物を見極める力がいかに重要かが強調されました。現代の情報社会では、膨大なデータや情報が氾濫しており、その中から真実や本質を見極めることが求められます。方条さんは、

「本物を見極めるためには、知識だけでなく、身体と結びついた知性が必要であり、これを養うためにはアナログ的な体験や自然とのふれあいが不可欠です」と語ります。

具体例として、芸術作品や音楽、本物の料理などに触れることで、背後にある職人の技術や思想を感じ取ることの重要性が挙げられました。これらの体験は、私たちの感性を磨き、物事の本質を見抜く力を養うための基盤となると説明。さらに、方条さんは、

「本物に触れることで、私たちは物事の真偽や価値を肉体の奥深くから感じ取り判断できる感性を身につけることができる。それが、現代社会を生き抜くための重要な鍵となります」と述べ、身体感が知性においてもたらす重要性を語りました。

会場風景

会場風景

身体感を取り戻すためのアプローチ

セミナーの終盤では、これからの社会における身体感の再評価と、それに基づく知性の育成が未来にどのような影響を与えるかについて提言が行われました。方条さんは、技術の進歩が私たちの生活を便利にする一方で、肉体や感性を軽視しないよう注意を促しました。特に、デジタル技術の利便性を享受しつつも、アナログ的な体験や自然とのふれあいを大切にすることが、これからの教育や生活習慣において不可欠であると指摘しました。

また、製品開発やサービス提供においても、身体感を意識したデザインやアプローチが有効であると言います。方条さんは、

「身体感に基づく感覚や感性を有効活用することで、顧客の言語外のニーズにもアプローチしながら、技術と人間性を調和させた新しい価値を創造することもできるはずです」と述べ、未来に向けた具体的なビジョンを示しました。

身体感と知性の融合がもたらす未来

セミナーの最後に方条さんは、身体感が知性の根源であり、文明の進化において重要な役割を果たしていることを改めて語りました。

「身体と知性のバランスを保つことが、私たちが未来に向けて文明を継続できるかどうかの鍵です」と語ります。

身体感と知性の融合が、未来に向けた豊かで持続可能な社会の実現に繋がるという方条さんの提言は、私たちがこれからの社会をどう生きていくかを考えるうえで、非常に示唆に富んだものでした。

 

【後編へ続く】

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